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【説教】あなたは幸いだ ──ペテロの信仰告白 2020/08/24

マタイ16:13-20
2020年8月23日・聖霊降臨後第12主日
京都聖三一教会にて

「イエスが言われた。『それでは、あなたがたはわたしを何者だと言うのか。』シモン・ペトロが、『あなたはメシア、生ける神の子です』と答えた。すると、イエスはお答えになった。『シモン・バルヨナ、あなたは幸いだ。あなたにこのことを現したのは、人間ではなく、わたしの天の父なのだ。』」
マタイ6:15-17

 今日の福音書は、ペテロの信仰告白の場面です。この信仰告白をイエスが喜ばれた──それを感じることができればと願います。わたしたちの真心からの信仰告白を、イエスさまは必ず喜んでくださるでしょう。
 それを思いつつ、ペテロの今日の信仰告白に至るまでにどんなことがあったかを、大まかにたどってみることにします。

 ペテロはガリラヤ湖の漁師でした。イエスが呼ばれました。「わたしについて来なさい。人間をとる漁師にしよう」(マタイ4:19)。ペテロは兄弟アンデレとともに、網を捨ててイエスに従いました。
 ペテロは結婚していました。彼の妻のお母さん(しゅうとめ)が高熱を発して寝ていたとき、イエスはペテロの家に行き、お母さんに手を触れて癒してくださいました。やがてペテロはイエスが選ばれた十二人の弟子たちの筆頭格になりました。とはいえ彼は早くからイエスさまのことをよく理解していた、というのではありません。逆にずっと彼の中には問があったのです。一体このイエスという方は何者なのか。イエスから神の声が聞こえます。イエスと一緒にいるとき、しばしば、ここに神がおられる、この方のうちに神がおられる、と感じます。この方は預言者に違いない。いや、それ以上の方かもしれない。

 あるとき、ペテロは他の弟子たちとともにイエスに従って湖の向こう岸、ガダラ人の地方に行きました。そのとき墓場から二人の精神に異常を来した人が出て来て、イエスを見るなり「神の子、かまわないでくれ」と叫びました(マタイ8:29)。イエスは二人を癒されたのですが、そのときの二人の「神の子!」という叫びが、ペテロの心に残りました。

 しばらく前のことです。ある日の夕方近く、彼は他の弟子たちとともに舟に乗り込んで、湖を向こう側に渡ろうとしました。イエスは一緒に行かず、山に登られました。夜、激しい風が吹いて波がひどく舟を揺さぶります。弟子たちは夜通し闇の中で困難に耐えていました。夜が明ける頃、湖の上を人影が近づいて来ます。弟子たちは「幽霊だ」と言って叫び声を上げました。すると「しっかりしなさい。わたしだ」という声がしました。それはイエスだったのです。ペテロはたまらなくイエスさまが慕わしくて「あなたのところに行かせてください」と言いました。「来なさい」とイエスが言われたので彼は舟から降りて水の上を歩き出しました。けれども風を見てこわくなり、たちまち溺れかけました。イエスに向かって叫んだペテロを、イエスは手を伸ばして捕まえて、舟に乗り込ませてくださった。そのとき弟子たちは「本当に、あなたは神の子です」(マタイ14:33)と言ってイエスを拝みました。
 信じて、願って、水の上を歩み出して、溺れて叫んで、イエスに助けられた。「本当に、あなたは神の子です」という思いが、ペテロの中に何度もこみ上げてきます。

 しかしイエスを信じるということは、社会の有力者たちの憎しみを買うことであり、場合によっては命の危険にさらされることでした。

 あるときイエスは弟子たちを連れて、ガリラヤ湖から50キロほど北のフィリポ・カイサリアという所に行かれました。その北にはヘルモンの山並がそびえています。イエスは弟子たちに尋ねられました。
「人々は、人の子のことを何者だと言っているか」
(マタイ16:13)。
これはペテロがずっと自分の中で問うてきたことです。
弟子たちはイエスについての世間の評判を伝えます。
 「洗礼者ヨハネが生き返ったのだ」「昔の預言者エリヤの再来だ」……
 マタイ16章15節を見ましょう。
 「イエスが言われた。『それでは、あなたがたはわたしを何者だと言うのか。』」
 世間が、他の人たちがではなく、「あなたがたはわたしを何者だと言うのか。」
 「シモン・ペトロが、『あなたはメシア、生ける神の子です』と答えた。」16:16

 ずっと心に思っていたことなのです。けれども今、イエスに問われて、はじめてはっきりと自分の言葉、自分の確信になったのです。
 「あなたはメシア、生ける神の子」「あなたは神の子、救い主」
 知識や考えではありません。このイエスさまに招かれ、教えられ、助けられ、そして愛されてきたペテロの中に燃えている思いです。それが今、イエスに問われて、イエスに向かってはっきりと言葉になりました。
「あなたはメシア、生ける神の子です。」
 イエスは答えて彼に言われました。
「シモン・バルヨナ、あなたは幸いだ。」16:17
 幸いだ、とイエスは言われます。あなたは幸せだと。こう言われて、ペテロは幸せです。こんなに幸せなことはありません。自分の命を、自分の生涯を託せる方、神の子がここにおられて、その方が自分を祝福してくださったのですから。
シモン・バルヨナ。シモンはペテロの元々の名前。「バルヨナ」とは「ヨナの子」という意味で、ペテロのお父さんの名前はヨナだったことがわかります。

「あなたはメシア、生ける神の子です。」
「シモン・バルヨナ、あなたは幸いだ。」

 ここに起こったことは何でしょうか。イエスに対する真心からの信仰の告白と、それに対するイエスの喜びの応答です。信仰の告白は喜びです。イエスが喜び、ペテロも喜びます。この信仰の告白によって、ペテロ自身の姿勢がはっきりしました。イエスがそれを肯定し保証してくださいました。

 ペテロに起こったことは、実はわたしたちのことなのです。イエスはわたしたちの信仰を喜び祝福してくださる。初めから確かな信仰などはないのです。求めたり、迷ったりする中で、イエスさまがわたしたちの中に信仰を育ててくださる。わたしたちもイエスに尋ねられて言います。
「あなたはメシア、生ける神の子です。」
わたしたちの未熟な信仰を、それでも心からのわたしたちの信仰の告白を、「あなたは幸いだ」とイエスは喜んでくださる。わたしたちの姿勢がはっきりします。イエスを信じて生きていきます。祝福の道です。

 「あなたにこのことを現したのは、人間ではなく、わたしの天の父なのだ。」16:17
 イエスが神の子、救い主であることをペテロに示されたのは、神。神さまはわたしたちにも、イエスさまをはっきりと分からせてくださいます。

 お祈りします。
 主イエスさま、この世界の中で、不安と迷いのうちにあって、あなたを十分に信じないできたことをおゆるしください。あなたがこの世界とわたしたちの救い主です。かつてペテロがあなたに対する信仰を告白したように、わたしたちも「あなたはメシア、生ける神の子です」と真心から告白させてください。そしてわたしたちにも「あなたは幸いだ」と言ってわたしたちを祝福してください。それがわたしたちの力です。あなたの喜びはわたしたちの喜びです。アーメン