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【説教】天を仰ぐ

創世記 15:1-6
ルカによる福音書 12:32-40

聖霊降臨後第9主日・2025年8月10日

聖光教会にて

昨日8月9日は長崎原爆の日、そして今週金曜日の15日は80回目の敗戦記念日です。この時期になると新聞でもテレビでも戦争の悲惨が伝えられます。わたしも特に夏には戦争に関する本を読むようにしています。平和への願いを強める大切な時期です。

ところが現実には、まったくそれとは正反対のことが起こっています。ガザでは何の罪もない何万人もの人々が殺されている。世界では軍備拡張が進められ、平和憲法を掲げているはずの日本でも、アメリカの要求に応えて莫大な費用を投じて軍事基地拡張、軍備増強を行いつつある。私は最近、その具体的な現実を明らかにした本を複数読んで、恐ろしい気持ちになっています。

そうした時期、日本と韓国の聖公会の主教会は共同で「8・15日韓聖公会共同宣言」を出しました。非常に重要だと思いますので、その一部をご紹介します。

全体は2頁で、「歴史を悔い改めて」「現在を省みて」「未来に向かって約束します」「主の召しにこたえて」の四つからなっています。その「現在を省みて」の一部です。

「いま世界は戦争と紛争によって苦しんでいます。『ガザでのジェノサイド』、『終わりの⾒えないウクライナ戦争』、そしてあらゆる地域で紛争が起こっています。このような時だからこそ、キリスト者は『平和を造る者』としての使命を思い起こさなければなりません。⽇本は戦後、神様の恵みによって平和憲法を制定し、戦争を放棄し、あらゆる武⼒を持たずして平和を追求する国となりました。これは『剣を打ち直して鋤とし』という神さまのみ⼼を実現する貴い賜物でした。私たちはこの平和の精神を⼤切に守り、さらに発展させていく責任があります。……」

軽く読み流してはいけない内容です。たとえささやかであっても、わたしたちに何ができるかを祈りつつ考えて、実践につなげていきたい。そのことが、イエスがわたしたちに告げられた「神の国」につながります。

 さて今日の旧約聖書です。遠い昔、アブラハム(元はアブラム)は神の呼びかけに従って、一族を率いて遠い旅をし、ヘブロンという所に天幕を張って生活をしていました。今のパレスチナの「ヨルダン川西岸地区」です。アブラハムはそこではよそ者であって、土地の人々、異なる民族の間に暮らしていて、できるだけ平和な関係を築こうと心を砕いていたのでした。

アブラハムには深い悩みがありました。それは、神さまが沈黙しておられる、ということでした。確かに神はかつて、自分に語りかけて、子孫と安住の地を与える約束をされた。けれどもその約束は実現せず、自分たちはだんだん年老いていく。今は一応周りと平和な関係を保っているとはいえ、いつ戦争に巻き込まれるかわからない。自分たちはこんな遠い異国に来て、やがて滅びてしまうのではないか。天幕の中で、毎晩アブラハムは重い気持ちに沈んでいました。しかし、この夜、神は長い沈黙を破って、彼に語りかけてくださったのです。

「これらのことの後で、主の言葉が幻の中でアブラムに臨んだ。『恐れるな、アブラムよ。わたしはあなたの盾である。あなたの受ける報いは非常に大きいであろう。』創世記15:1

アブラハムはどんなに驚き、また励まされたことでしょうか。けれどもそれで安心できなかった。彼の苦悩と不安はあまりに大きかったのです。彼は、神さまに率直に訴えかけます。

「アブラムは尋ねた。『わが神、主よ。わたしに何をくださるというのですか。……」

……