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「男子名は古日に恋ふる歌」 万葉集より 巻5 904(909)
山上憶良(やまのうえの おくら)
なにものにも代えることのできない愛するわが子を病で失った親の嘆きの歌。
世間(よのなか)の 貴(とうと)び願ふ 七種(ななくさ)の 宝も 我れは 何せむに
我が中の 生れ出でたる 白玉(しらたま)の 我が子 古日(ふるひ)は
明星(あかぼし)の 明くる朝(あした)は 敷栲(しきたえ)の 床(とこ)の辺(へ)去らず
立てれども 居(お)れども ともに戯(たわむ)れ 夕星(ゆうつづ)の 夕(ゆうべ)になれば
いざ寝よと 手を携(たずさ)はり 父母(ちちはは)も うへは なさがり さきくさの 中にを寝むと
愛(うつく)しく しが語らへば いつしかも 人と成り出でて 悪(あ)しけくも 吉(よ)けくも見むと
大船の 思ひ頼むに 思はぬに
邪(よこ)しま風の にふふかに 覆(おお)ひ来(きた)れば
為(せ)むすべの たどきを知らに 白栲(しろたえ)の たすきを掛け まそ鏡 手に取り持ちて
天(あま)つ神 仰(あお)ぎ祈(こ)ひ祷(の)み 国つ神 伏して 額(ぬか)つき
かからずも かかりも 神のまにまにと
立ちあざり 我れ祈(こ)ひ祷(の)めど しましくも 吉(よ)けくはなしに
やくやくに かたちつくほり 朝な朝な 言ふことやみ たまきはる 命絶えぬれ
立ち躍り 足すり叫び 伏し仰ぎ 胸打ち嘆き
手に持てる 我が子飛ばしつ 世間(よのなか)の道
現代語試訳
世の中の人が尊重しほしいと願うさまざまな宝も、私には何であろうか。
わが家に生まれた輝く玉のようなわが子、古日(ふるひ)は
明星が輝く朝は床(とこ)のあたりを離れようとしないで
立ってもすわっても一緒に遊び戯れ、夕の星の出る夕方になれば
さあ寝ようと手を取って、お父さんもお母さんもそばを離れないでね、あいだに寝るからと
かわいく言うものだから、いつか大きくなっても、良くても悪くても見守ってやろうと
大船に乗ったようにそのつもりでいたのに
思いもかけずよこしまな風がにわかに吹きつけて来たので
どうしてよいか分からず、白いたすきをかけ、白銅の鏡を手に取って
天の神を仰いで祈り、国の神に額をつけて伏し拝み
治してくださるのもせめてこのままで生かしてくださるのも、神のお思いのままにと
うろうろと取り乱して、祈り拝んだけれども、少しの間も良くはならず
だんだん顔かたちがぐったりして、朝ごとに言葉がなくなり、命が絶えてしまった。
立ち躍り、足を引きずって叫び、地に伏しては天を仰ぎ、胸を打って嘆いたが
大切に手の中に保っていたわが子を吹き飛ばすように亡くしてしまった。
世の中とはこのようなものなのか。