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詩人・尹東柱の命を奪った治安維持法
平和を実現するキリスト者ネット ニュースレター
208号 2020年7月10日発行
今から77年前の1943年7月14日、同志社大学英文科に留学していた尹東柱は、下鴨警察署特高刑事によって逮捕されました。「治安維持法違反」の容疑でした。治安維持法とはどういう内容だったでしょうか。
第1条「国体ヲ変革スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シタル者又ハ結社ノ役員其ノ他指導者タル任務ニ従事シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ7年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ処シ情ヲ知リテ結社ニ加入シタル者又ハ結社ノ目的遂行ノ為ニスル行為ヲ為シタル者ハ3年以上ノ有期懲役ニ処ス」
第5条「第1条乃至第3条ノ目的ヲ以テ其ノ目的タル事項ノ実行ニ関シ協議若ハ煽動ヲ為シ又ハ其ノ目的タル事項ヲ宣伝シ其ノ他其ノ目的遂行ノ為ニスル行為ヲ為シタル者ハ1年以上10年以下ノ懲役ニ処ス」
彼が自分の民族の言葉で詩を書き、また日本からの独立への願いを友人と語り合ったことが重大な犯罪とされたのでした。彼は京都地方裁判所で懲役2年の判決を受け、1945年2月16日未明、福岡刑務所の独房で絶命しました。拷問と寒さによる衰弱。満27歳でした。
尹東柱は、1917年12月30日、中国吉林省明東に生まれ、幼児洗礼を受けました。日本による朝鮮植民地支配の時代です。彼はソウルの延禧専門学校時代に多くの珠玉の作品を書きました。そのひとつが「星を数える夜」です。
季節が移りゆく空には
秋でいっぱい 満ちています。
わたしはなんの憂いもなく
秋の中の星々をみな数えられそうです。
……
星ひとつに 追憶と
星ひとつに 愛と
星ひとつに 寂しさと
星ひとつに 憧れと
星ひとつに 詩と
星ひとつに お母さん、お母さん、
……
自筆原稿を見ると、コクヨの400字詰め原稿用紙に万年筆で書かれたこの比較的長い詩は、次の言葉でいったん終わり、(一九四一・十一・五)という年月日が付されています。
この星の光が降る丘の上に
わたしの名まえの字を書いてみて、
土でおおってしまいました。
夜を明かして鳴く虫は
恥ずかしい名を悲しんでいるからです。
日本渡航のために「平沼東柱」と改名せざるを得ない。その名を彼は恥ずかしく思い、書いてから土で覆ってしまったのでしょうか。しかしこの後、彼は次のような言葉を書き足しました。
けれども冬が過ぎて わたしの星にも春が来れば
墓の上に青い芝草が萌え出るように
わたしの名まえの字がうずめられた丘の上にも
誇らしく草が生い繁るでしょう。
まるで彼は自分を待ち受ける死を予感し、しかしそのかなたに新しい命の輝きを見ていたかのようです。今も尹東柱の生涯と詩は、闇の中に美しい光を放っています。
いわゆる「共謀罪」を含む改正組織的犯罪処罰法が、2017年7月に施行されました。これは尹東柱の命を奪った治安維持法の再来です。治安維持法によって彼が逮捕された同じ月。この国の暴走を許してはならないとの思いを新たにします。
(いだ・いずみ 日本聖公会司祭)