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鄭燦宇(チョン・チャヌ)牧師追悼
7月のはじめ、庭のムグンファ(無窮花=むくげ)が一輪咲きました。その白い花を見て、1年前に突然逝ってしまわれたあなたのことを思いました。
日ごとに数を増し、勢いを増すムグンファの前を通るたびに、あなたのことを思います。
あなたが日本に来られ、そして私たちが知り合ったのは今から6年前、あなたの27歳の時でした。あなたは韓国と日本の間に立って、学びと働きを続けておられました。私たちはあなたと一緒に『日韓キリスト教関係史資料Ⅱ』の編集の仕事をしました。
資料集の仕事は困難なことがたくさんありました。マイクロフィルムから起こした、文字のつぶれた資料を読み取る、というようなこともたくさんありまし た。そのような細かい、目と神経を痛めるような作業を、あなたはこつこつとやってくれましたね。そして翻訳の上で出て来る疑問にも丁寧に答えて協力してく れました。あなたはとても優しくて暖かい人で、ちょっとはにかむようなところがあって、あなたがいることでみんなの気持が和みました。あなたの静かな熱意 は私たちの希望また力でした。
あなたが日本や日本のキリスト教のことを批判するのを、私は聞いた覚えがありません。しかしあなたがこの資料集の仕事を熱心にやってくれたのは、この資 料集によって日本と韓国のキリスト教の関係が今までよりずっと明らかになって、それは痛みをともなうものではあるけれども、歴史の事実を共有することで、 韓国と日本の教会か本当に信仰の交わりができるようになると、そこから恵みが与えられると、信じて期待しておられたからでしょう。あなたの一番目のお子様 の名前は、ウンギ(恩基)ちゃん、恵みの基(もとい)という意味でしたね。
それなのにあなたは、資料集刊行の2ヵ月前に、逝ってしまわれました。
あんなに元気だったあなたが、私より十以上も若かったあなたが、こんなに早く逝かれるとは。
あなたは請われて、在日滞日韓国人会衆のハンサラン教会の牧師をしておられました。一度私を説教に招いてくださったことがありました。その時あなたは、 教会の人々がどんなに熱心に教会とあなたを支えていてくれるかを話してくれました。それを聞きながら私は、あなたがどんなに心を込めて牧会しているかを感 じました。日本の国は、立場の弱い外国人にとって住みにくい国です。韓国・朝鮮人に対する差別と偏見の強い国です。そんな中で在日の人々が教会をどんなに 頼りにしているか、福音をどんなに切に求めているか。それを私はたった一回のハンサラン教会訪問で感じました。あなたは、この国で困難を負っている同胞の ために福音を伝えようとして、精一杯の努力をしてこられたのだと思います。会衆の重荷をあなたが一緒に受けとめて、それがあなたのいのちを縮める原因のひ とつとなったのだとしたら、その会衆である在日の人たちに重荷を負わせているのは日本人と日本社会、そして自分もまたその一員。あなたの余りにも早い死は 私にも責任があると、そう思えてなりません。
いつか、富坂キリスト教センター関係の、重要な会議の講演の翻訳を一緒に検討したことがありました。直接会う時間がなかったので、電話で、3時間ほどか けて、韓国語と日本語のニュアンスと用法を一語一語確かめながら、限られた時間としては最善のものができたと一緒に喜びました。「これで、翻訳への疑問や 批判が出ても、こういう理由でこう訳したと説明できる!」
長い電話は疲れたけれども、共同の作業をここちよく感じました。
この先長く一緒に仕事ができると思っていたのに、何年も何十年も一緒に力を合せて歩んでいけると思っていたのに、あなたはあまりにも早く逝ってしまわれ ました。いつでも話せると思っていたのに、あのこともこのこともそのことも話さないうちに、あなたは逝ってしまわれました。
あなたを思ってわたしは悲しむ。
兄弟ヨナタンよ、まことの喜び! (サムエル記下1:26)
ダビデがヨナタンを悼んだ言葉は私の心です。
ふと、金素月(キム・ソウォル)の詩の一節を思います。
粉々に砕けた名前よ!
虚空の中にばらばらになった名前よ!
呼んでも主人のない名前よ!
……
悲しみに絶え入るまでに 呼ぶ
悲しみに絶え入るまでに 呼ぶ(「招魂」)
こんな言葉の断片が私のうちにこだまします。
あなたの名前を歴史の中に刻んでおきたい。また私の歴史の中にも刻んでおきたい。
あなた死を、あなたとの出会いを、決してむだにすまいと、そう思っています。
(1996.7.3)