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エジプトへ――アブラハム物語2

「その地方に飢饉がひどかったので、アブラハムはエジプトに行った。」

創世記12:10

 「わたしの教えるところに行きなさい。わたしはみんなを幸せにしてあげよう」。神さまの声を聞いて、アブラハムさんは奥さんのサラさんと、親類のロト君と、そのほかたくさんの人や羊やらくだ、ろばといっしょにカナンというところにやってきました。いろんな心配なこと、こわいことがあったのですが、アブラハムさんもサラさんも毎日いっしょうけんめいお祈りしました。そして神さまはアブラハムさんもサラさんもみんなも守ってくださいました。神さまはお祈りを聞いておられたのです。

 ところが困ったことが起こりました。「その地方に飢饉がひどかった」。飢饉というのは、食べ物がなくなってしまうことです。食べるものがない。このままではみんな死んでしまう。ところがエジプトという国には食べ物がたくさんあるということです。
 そこでアブラハムさんはみんなを連れてエジプトに行きました。けれどもエジプトに来たとき、アブラハムさんはとても心配になったことがありました。エジプトで自分は殺されて死んでしまうのではないか、ととてもこわくなったのです。なぜかというと、奥さんのサラさんがとてもきれいな人だったからです。サラさんはとてもきれいでかわいい人でした。もしエジプトの王さまがこのサラを見たら、きっとサラのことが好きになって、サラを連れて行ってしまうだろう。そのとき、「アブラハム、お前は邪魔だ!」と言って王さまは自分を殺すのではないか。ああ、おそろしい。殺されるのはいやだ。どうしよう。どうしよう。

 アブラハムは思いつきました。そうだ、こうしよう。「このサラはわたしの妹です」と言うことにしよう。そうしたらきっと殺されずにすむし、サラのおかげで王さまからご褒美をいっぱいもらえるかもしれない。そうだ。これはいい考えだ。「サラ、そうするぞ。ぼくは殺されるのはいやだから、サラはぼくの妹ということにする。いいか、分かったか」。サラさんは黙っていました。
 エジプトの王さまがやってきました。サラさんを見ました。「何というきれいなかわいい人なのか。わたしのお嫁さんにしよう」。そして王さまはアブラハムさんに向かって言いました。「あなたはだれですか」。「わたしは、あの、ええっ、そのサラのお兄さんです。サ、サラはわたしの妹です……」。「ああ、サラさんのお兄さんですか。それはそれは。アブラハムさん、お城に来てください。ご馳走して差し上げましょう」。
 アブラハムさんはうそをついてしまったのです。サラさんは悲しそうな顔をして、アブラハムさんを見ました。
 アブラハムさんは王さまのお城に行き、ご馳走をいっぱい食べさせてもらいました。「アブラハムさまはサラさまのお兄さまです」と紹介してもらいました。ご褒美もたくさんもらいました。(うまく行った、うまく行った。)けれどもなぜか楽しくありません。サラさんの悲しそうな顔を思い出しました。(いいや、いいや、ぼくは助かったし、ご褒美もこんなにもらったのだから……)

 サラさんを御殿に連れて行った王さまは、サラさんをお嫁さんにしました。サラさんは王さまのお妃さまになったのです。ところがその日から王さまは急にお腹が痛くなり、病気になってしまいました。王さまだけではなく、大臣も召使いも、お城の人みんなが病気になってしまいました。どうしてでしょう?
 その時、神さまの声が聞こえました。「サラさんはアブラハムの妹ではない。サラさんはアブラハムの奥さんです。王さまのお嫁さんにしてはいけない」。
 みんなとてもびっくりしました。王さまはアブラハムさんを呼んで言いました。「どうしてうそをついたのか。さっさと出て行ってもらいたい。」
 サラさんはアブラハムさんの所に帰ってきました。サラさんは悲しそうな顔をしていました。アブラハムさんは、うそをついて悪かった、と思いました。自分のことだけを考えてサラさんをこわい悲しい目に合わせたのがまちがっていた、と思いました。「神さま、ゆるしてください」とアブラハムさんはお祈りしました。サラさんは悲しそうな顔をしています。アブラハムさんとサラさんは仲直りできるでしょうか。

 神さま、私たちが何かまちがったことをしたとき、うそをついてしまったとき、だれかを悲しくさせてしまったとき、私たちをゆるしてください。ごめんなさいと言ってあやまり、仲直りすることができるようにしてください。アーメン

(2004/09/15)